このブログではほとんど書いてなかったのだけれど、ぼくのライフワークというか読書ジャンルのひとつとして、「エロス研究」があります。本屋さんに行ったときも、サブカルコーナーや河出文庫、筑摩書房のコーナーはそういうジャンルの本が多くて、とりあえずチェック。
これまでに200冊くらいのエロス関連本を読んできたのですが、たまにそういう話を猿基地でもしたりすると、案外楽しんでもらえることが多いので、今日はぼくが読んできたエロス関連書籍の中で、ぼくがおすすめしたいエロス本ベスト5をご紹介してみます。「エロ本」じゃなくて、「エロス本」ですよ。

まずは何をおいても、これです。
えろす福音書 (河出文庫)
高橋 鉄
河出書房新社
1994-03

高橋鐵という、エロス研究における知の巨人
この人を語らずして日本のエロス研究は語れない。

1907年生まれで1971年に亡くなった方なので、もちろん科学的研究という意味では、現代のほうが明らかになっていることは多い。ただ、そんな時代でありながら、エロスのみならず日本の文化史、心理学、文化人類学や民俗学に至るまで、膨大な知識と教養とアイデアに裏打ちされた理論で、エロスを識り、分析する。まさに博覧強記のセクソロジスト。

そんな高橋鐵の著作はどれも面白くて、むしろベスト5はぜんぶ高橋鐵でもいいんじゃないかというくらいなんだけれど、中でもエロスそのものについて全般的包括的にまとめられているのが、この『えろす福音書』なわけです。

もう目次だけで、わけわからん(良い意味で)。
世界の聖典に現れたエロスの福音
極致性感の観察鑑定
性器に集まる本能感情
性的不満から惹起する個人的・社会的大害
う~ん……。すごい。
「性」について語る言葉がこれほどまでに学術的になりうることを、この本を、というかこの人を通して気づかせてもらいました。もったいないのは、この高橋鐵の著作は大部分がもう絶版になってしまっているということ。時代的・科学的齟齬はありうるとは言え、高橋鐵の名著の数々は、やっぱり世に残し、伝えるべきだと思うんですよね。

他にも、『日本の神話』をはじめ、『性感の神秘』や『アブノーマル』、『浮世絵』もむちゃくちゃ面白いです。


そして2冊目。

高橋鐵が昭和中期の知の巨人なら、代々木忠は昭和後期の「現場の巨人」
多くの人が知るAV男優 加藤鷹の師匠でもあり、徹底的に人間に寄り添った作品を生み出すAV業界の巨人。そして今なお現役78歳。他にも、『虚実皮膜』や『快楽の奥義』、『つながる』等の著作はあるけれど、初期の頃のエネルギーがいちばん感じられるのが、この『プラトニック・アニマル』。
「作りものではない性」に向き合い続けたAV界の巨匠が、性の本質を語るわけです。単なる技術や理論、テクニックじゃない。その先にある、人と人が心身ともにつながるための性との向き合い方を教えてくれる珠玉の一冊。


んで、3冊目は方向性が大きく変わって、これ。

世界中からも認知されているとおり、日本のエロス文化はどの国よりも発達していて、さらに細分化されているわけです。そのバリエーションは世界最高峰で、その理由や原因を語ろうとするとブログだけじゃ収まりきらない。そんな日本独自のエロス文化の発展を、ジャンルや時系列ごとに分類して分析しているのが、この本。
テレクラから出会い系サイト、エロ本やアダルトグッズにネット動画、そんな日本独自の性文化のことはもちろん、この本の凄さは、実際にその渦中でそれらを生み出してきた人たちのインタビュー。

ぼくのお気に入りの名言。
学生も社会人も“評価される”ように頑張っている人が多い。
でも、評価って“させるもの”だと思うんです。
と言った「エロデパート」芳賀書店の芳賀英紀社長もそうだし、今やエロ動画以外にも3Dプリンターや金融業にまで進出しているDMMの担当者、さらには超精巧なラブドールを開発している、知る人ぞ知るオリエント工業。さらには世界展開するほどになったTENGAの社長の話は出色の内容です。日本人としての「モノづくり」のプライドを感じます。日本独自のエロス文化の発展プロセスを知りたいなら、これ。


4冊目は、これ。
ヴァギナ 女性器の文化史 (河出文庫)
キャサリン・ブラックリッジ
河出書房新社
2014-05-02

ええと……そのまんまですが、なんかすみません。
400ページをゆうに超える大著ですが、だからといってボヤけることなく(表紙の画像はボヤけてますが……)、最初から最後まで密度の濃い学術書です。タイトルでは「文化史」とあるけど、動物や昆虫の性器や性交、解剖学的な知見からの分析、当然ながら匂いや分泌物の詳細、カントやアリストテレス、キリストといった言語学や哲学、宗教的な内容に至るまで、あらゆる角度からタイトルそのまんまに詳細に書かれています。
面白くて興味深くて引用したい文章だらけなんですが、さすがに自粛……。ただむっちゃくちゃ面白いです、いやマジで。


そして、最後は迷いに迷った末に……これ!

やっぱりお仕事の話をメインにしているこのブログですから、たとえエロスについて書こうとも、少しは「お仕事」にかかわることも書いておこう、と。それでいて、別にそう考えたから、という話じゃなくて、内容的にもしっかりちゃんと面白いおすすめ本です。
森三中の大島さんの旦那さんとしても有名な放送作家の鈴木おさむが、5人のAV男優にインタビューをしていく内容。

森林原人やしみけんといった若手(つっても、もう彼らもアラフォー間近だ……)をはじめ、その兄貴分の島袋浩、さらには「ハメ撮り」を開発したカンパニー松尾やAV界の重鎮 安達かおるの仕事観に迫っていく。彼らの話を読んでいると「たかがAV」なんかじゃなく、本当にプロ意識をもって仕事に取り組んでいることがわかるし、生半可な覚悟じゃぜんぜん務まらない仕事だということがわかります。
「自分は彼らほどにちゃんと仕事してるかな?」と自問したら、どう考えてもまだまだ足りない。そんなAV男優という仕事を通して、生き方とか働くことにまでヒントをくれる良書です。


う~ん、ここまで書いたらもう一つ。
次点として、これ。

日本を代表する民俗学者 柳田國男が対象としなかった「性風俗」に焦点を当てて、かつての日本の性への向き合い方を徹底的なフィールドワークで紐解いた1冊。
「筆おろし」や「夜這い」、性コミュニティとしての村や盆踊りや祭の意味、そんな戦後直後まで存在した日本独自の姿を教えてくれる。今でこそ普通に使われている「雑魚寝」だって、もともとは性的な意味合いがあったって、知ってた?


以上、エロス研究の参考書ベスト5とプラス1。
さてさて、どう受け止められるんだろう……?
興味がある方はぜひぜひ読んでみてくださ~い。