この週末に伝説の就活生ことY下くんがまた帰ってきてくれて、この本の存在を教えてくれました。

まだ読んでいないけれど、これ「城山三郎入門」として、とっても良い本な気がします。
城山三郎入門でありつつ、「社会人入門」


ぼくが高校生のころから好きだった小説家。
明治から昭和初期を生きた政財界人を書いたら、城山三郎に比肩する小説家なんていない、と言い切っちゃってもいいくらいの小説家。そんな城山小説の登場人物に、ぼくは学生時代からずっと刺激されてきました。
大学入学くらいに小説をほとんど読まなくなってから今に至るまで、いつでも「また読みたい」と思っている小説家が、この城山三郎と山崎豊子、そして心の師匠、開高健の3人。音楽で言えば、U2とLed Zeppelinがあれば生きていけるように、小説だったらとりあえずこの3人の本があれば、ぼくにはもう充分、何度でも手にとりたい存在です。

そんな城山小説、「もっと学生にも読んでほしい」と思いつつ「長いもんなぁ…」と諦めていたわけです。
本当は渋沢栄一を描いた『雄気堂々』とか、広田弘毅を描いた『落日燃ゆ』、石田禮助を描いた『粗にして野だが卑ではない』、浜口雄幸『男子の本懐』、石坂泰三『もう、きみには頼まない』あたりも読んでほしい。でも、長い。でも読んでほしい……けど、長い。

と、そんなときにこそ、これ。
「はじめに」に書いてある文を抜粋すると、こんな本です。
自分が小説のために調べた人物、あるいは興味をおぼえて実際に会った人たちについてお話をしながら、みなさんと<人間の魅力>について考えることができればと思います。

そう。
これまでに城山三郎が描き、調べてきた人たちについてのエッセンスが抽出されています。
この「はじめに」の段階でもすでに、浜口雄幸と広田弘毅、御木本幸吉(あとは幣原喜重郎)が、「昭和5年の11月14日午前9時少し前」に東京駅にいたというエピソードから始まります。
つまり、言ってしまえば「城山三郎オールスターズ」の本なんです。

こりゃあ、城山三郎入門としてバッチリです。


個人的にも改めてしっかりと、城山三郎エッセンスを吸収するために読みたい。
4章には、こんなことが書いてあります。
城山三郎が訳した『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』(これも良い本!)の話。
「とにかく人に信頼される人間になれ」。この世で一番大事なことは、人に信頼され、信用されることだ。(中略)この人生においては、信用というものは、極めて細い糸のようなものだ。ひとたび切れたら、それをつなぎ直すことは不可能だ
って、うんうん頷きすぎて首がとれそうになっちゃいます。

他にも「財界の鞍馬天狗」と言われた、現みずほファイナンシャルグループの頭取をしていた中山素平とのやりとり。
彼がよく口にする言葉に、「箱から出なくちゃいけない」というのがあります。中山さんが人を評価する基準は、「あいつは箱の中に入って安住しているか、それとも箱から出ようとしているか」という点なのです。

ふむふむ……。


もしかしたら、この本に書かれているメッセージそのものは「そのへんのビジネス書にも書いてあるでしょ」というようなことかもしれません。

ただ、何よりやっぱり、城山作品の面白さは、それが実在の人物のリアリティを持って表現されている点にあるわけです。
「こんなときはこうしましょう」
「こんなことが大事ですよ」
まあ、その内容は正しいのかもしれないけれど、それが平たいビジネス書の中に書いてあるのと、実在の人物の姿を重ねて描かれるのでは、やっぱり浸透度が違います。

たしか、それこそ城山作品で読んだような気がするのだけれど、ぼくが高校生のときに沁みた言葉が、「小説を読むときは、自分が主人公になったつもりで読みなさい。同じ環境、同じ境遇に置かれたときに、自分だったらどうするか、どんな手段をとるだろうかと考えながら読むことで、その思考そのものが自分の“経験”になる」というようなこと。

この『少しだけ、無理をして生きる』は、たった200ページの中に、何十人という人物のリアリティがあって、それを追体験的に経験できる舞台が広がっています。しかも、それが100冊近くも執筆した城山三郎のエッセンスとして詰まっているわけです。

女性の必読書が、『蒼い時』と『この世でいちばん大事なカネの話』と『二十歳の原点』だとすれば、男の必読書のひとつとして、この本を入れてもいいんじゃないかと思います。

学生も社会人も、ぜひぜひ読んでみてください。
普段は本を読まない人も、少しだけ、無理をして読んでください。
価格はたったの430円。少しも無理じゃ、ないでしょ♪

ちなみに、渋沢栄一ってこんな人。
人間ひとりの人生で、ここまでのことができるなんて、ホント信じられない……。