前職で面接を担当していたとき、「この子はちょっと面白そうだな」と感じたときにはこれを聞こう、と決めていた質問がありました。

「いままでの人生で、本1000冊読んでる?」

単純計算をすれば、だいたい年間50冊。それが20年だとだいたい1000冊になります。
もちろんマンガは別として、普通の文字が書いてある本を1000冊。
ぼくの面接は社内でも厳しめだと評判で、年間100人弱の面接で「SABCD」の5段階評価。Sは0人、Aも年間1人か2人くらい。んで、Bが4,5人で、残りはほとんどCかDという感じ。
そんな評価基準でありながら、この質問に「読んでる」と即答する人がいたら、迷わずAをつけようと決めていました。
結局は面接をした数年間のうち、そういう学生には出会えなかったので、何の意味もない決めごとになっちゃったのですが、一方、猿基地をはじめてからは「それくらいは読んでますよ~」って学生が数人ながらいたというのは、とっても素敵なことだと感じておるしだいです。

ぼくはある程度、「その人が読んできた本の厚みと、人間性の深みは比例する」と考えています。
もちろん本以外に人間性の深みを醸成する要因はいくらでもあります。

ただ、少なくとも本ほど手っ取り早く、それでいて幅広く、そして深く世の中を識ることができるものって、そうそうありません。
だからこそ、本を読んだほうがいいと考えているし、たくさんの本を読んできた人はそれだけで人間としての深みがあると信じてるわけです。

ただ、一方でいま出会う学生からはこんな言葉も聞きます。
「本を読まなきゃ、と思うんですけど読めなくて」
「何から読んだら、読書は楽しくなりますか?」
「おもしろいと思える本に出会えなくて……」

もう、とってももったいない。
人類の英知や、人生のヒントや、未知の世界を、たったの千円前後で手に入れることができるのに、その魅力を知らないなんて!!

と「む~ん!!」と思っちゃったりするのですが、たぶんそういう人たちは「棒」をもってないんじゃないかと考えるようになりました。

どういう意味かというと、読書って綿アメなんじゃないか、と。
そうです。あの縁日とかで見る、綿アメ。

綿アメの機械って、見たことあります?
ヴォーンっていってる機械の真ん中にザラメを入れて、クルクル回しながら作るやつ。
読書って、あれと同じなわけです。

機械にザラメを入れて、目に見えにくい綿アメの素(?)が空気中にフワフワ出てきてる。そこに棒を突っ込むことでフワフワをつかまえることができるけれど、棒がないとフワフワはどんどん飛んでいっちゃう、流れていっちゃう。

それって読書も同じ。
ただ人に薦められた本を、ただ文字を追っかけているだけだと、綿アメのフワフワと同じでどんどん流れていっちゃうし、捕まえられない。
けれど、自分なりの興味やアンテナ、その本を読んで「こんなことが知れたらいいな」という「棒」をもっていると、その棒のまわりにフワフワが集まってきてくれる。最初は上手に捕まえられないこともあるけれど、回数を重ねるごとに捕まえ方が上達して、集められる量はどんどん増えていく。

そういう意味で、読書は綿アメである。
「棒」を持っているから、そこにあるものを捕まえられる。
んで、さらには、その「棒」はいくつか種類があるといい。
そういうものなんです、読書って。

現段階で「読書が好き」な人にとっては、もしかしたら「鶏が先か卵が先か」という側面もありえます。
ただただ読むのが好きだったから興味の範囲が広がったのかもしれないし、興味があるものを読んでいたら、どんどん読書そのものが好きになったのかもしれません。
ただ、現時点で「あんまり本は読まないなぁ」という人は、まず自分の「棒」を持ってみる。
それにかかわるものから手を付けてみる。そこには絶対に何かしらの発見があるし、自分の知らなかったことがわかるという快感があります。

とはいえ、過大な期待はしすぎずに。
本を読む人にとっては常識ですが、本の読むとこ読むとこすべてが役に立つわけでもないし、すべての本が「読んでよかった~!」って本ばかりともかぎりません。むしろ、本は1冊読んで、1,~2個「ほうほうなるほど!」と思える言葉があればいい。
それくらいの気持ちで読んでいくと、「ほうほう」以外の流し読みをしていた部分も、自分の頭のどこかには残っていて、それがあるからこそいつか他の本を読んだときに、「ああ! あれの話とつながるわい!」ということも起きます。
そして、それを繰り返していくことで「ほうほう」と思えるだけの土台もしっかり増えていく。「棒」が増えるわけです。

そういう意味で、「何から読めばいいんだろう」の人は、まずは自分の棒を意識してみましょう。
そこから始めて、少しずつ棒を増やしていく。そうすれば、あなたの綿アメはどんどん大きくなっていきます。しかも何本も作れるようになる。

読んできた本の厚みと、人間性の深みは比例する。
ぜひぜひ読書で、人間性の深みを生み出していってくださ~い♪
ではでは、楽しく、気持ち良く、適当に~!