学生たちから話を聞いていると、企業の採用担当でもぜんぜん勉強してなさそうな人がそれなりにいる気がします。
いまだに圧迫面接をしていたり、新卒マーケットの状況がわかっていなかったり、有名な理論を曲解して使っていたりと、「そんなんで学生の人生を左右すんな~!!」って思っちゃう。

人事や採用担当にかぎらず、就職コンサルを自称する人やキャリアセンターの人たちもそうで、そういう立場にいるなら、もうちょっとちゃんと勉強したり、考えたりしておいてほしい。
ゆ~てもぼくも、企業側のほうの現場を離れてしばらく経っているので、どこまでリアルタイムに追いかけられているかといったらわからないのだけれど、せめてこのへんだけは知っておくのが人事・採用系の仕事をする上では最低限のところでしょ、と考えていることについて書いてみます。前後編のうちの前編です。

「メラビアンの法則」

これはもう、エセかどうかを判断する上での初級中の初級編。
向き合ってる人が「メラビアンの法則」なんて言いだしたら、その場で即、エセレッテルを貼っつけちゃっていいです。
何かというと、「コミュニケーションにおいての情報は、視覚情報が55%、聴覚情報が38%で、言語情報はたったの7%でしかないんです」とかいうやつです。「内容そのものよりも、見た目や声のトーンといった非言語コミュニケーションだけで93%の情報伝達が……」って言ったりするわけですね。

でも、この研究内容はそんなことを言ってるわけじゃありません。
これはそもそも、言葉・聴覚・視覚でそれぞれ一致しない情報が入ってきたときに、人はどれを優先しがちか、という研究なんです。
たとえば、怒った表情の写真を見せながら、「うれしいなぁ」という言葉を、寂しそうに言う。そのときに、受け手は「表情・言葉の意味・言い方」のどれを受け取るのか、という内容でしかありません。

なのにエセの人たちは、それを拡大解釈してコミュニケーションの話にすり替えて(というよりも、どこかの誰かから聞いたのを鵜呑みにして)、就活や面接の話で使ったりするわけですね。
なので、この法則を言い出すような人がいたら、とりあえず「あ、ダメな人かも……」と疑ってかかりましょう。

「Will・Can・Must」

これもぼくは怪しい言葉だと思うんですよね。
つまりは、「やりたいこと」、「できること」、「やるべきこと」の3つの円で考えて、それが重なるところが天職になりうるよね、みたいに使われたりしています。
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もともとの出所がどこなのかは曖昧ですが、ドラッカー説とシャイン説があるように思います。
ドラッカーだとした場合、彼が言っているのは「やるべきこと」というよりも、「組織においてなされるべきことは何か」を考えよう、と言っているわけで、更には「それがいつでも最初に考えるべきことだよ」と言っているわけです。この図が表すような「Will・Can・Must」の3つの輪みたいなことはぜんぜん言ってません。
一方、エドガー・シャインだったとしても、やっぱり「Must」の部分にズレがあります。
彼が言っているのは、「強みや弱みを考えよう(=Can)」と「動機や欲求を考えよう(=Will)」まではそうだけれど、もうひとつは「価値観、判断基準を考えよう」なわけです。それを曲解して、「Must」にしちゃうからムリが生じる。

そして何よりも、ドラッカーにしてもシャインにしても、日本の新卒採用なんかを前提にしてない、というところなんですよね。
あんまり社会に触れたこともなく、仕事の責任を負ったこともなく、そもそもキャリアについての意識も高いわけじゃない日本の学生が、この「Will・Can・Must」で考えようとしても、「Must」で出てくるのはせいぜい「任された仕事に全力で取り組む」とか「顧客の要望に向き合う」とかそんなのしか出てきません。
そんな理論で就活のアドバイスをするのって、ぼくは不勉強だし不親切だと思うんです。
それを言ってる人たちも、たぶんドラッカーもシャインも読んでない人が大半だろうし、とりあえずそれくらいは読んでおけ! と。

「キャリアプラン」

これもね、学生たちに聞いているといまだに面接で聞いてくる人がいるみたい。
も~ですね、今ごろ「キャリアプラン」とか言ってんじゃね~ですよ!!(怒)と。
古い古い古い古い古い古い古い、もうその考え方、ひと昔どころじゃないくらいに古い!

というよりも、この今の時代の中で、社会人ですらプランなんて立てられると思っている時点で、昭和レベルの古い考え方。3年や5年で大企業だってどうなるかわからないような時代に、これから数十年ものキャリアをプランすることなんてできるはずがありません。

クランボルツ先生の「計画的偶発性理論」くらい知っておきましょう。
いい歳した社会人で、ましてや採用にかかわるような人が、それくらいの勉強をしてないなんてちょっと信じられない。そんなことを言う人には「キャリアドリフトについては、どう考えてますか?」と聞いてみるか、その場で席を立って帰っちゃってもいいです。
一方で、学生や若手社会人のみなさんは、この理論を知っておくと仕事へのスタンスも変わるかもしれないので、良かったら読んでみるのもいいし、このへんこのへんの記事だけでも読んでおくだけでもいいかもしれません。

以上、今回は人事系の基礎知識(前編)をお送りしました。
次回は、後編として人事・採用にかかわる人なら、この人の著作は読んでて当たり前だよねの5人をご紹介するつもりです。また明日をお楽しみに~♪

楽しく、気持ち良く、適当に!!